ご家族の方がお亡くなりになられた場合、その時に相続が発生し、被相続人(亡くなった方)が所有していた債権債務は、法定相続人にその全てが引き継がれます。法定相続人が複数いる場合には、全ての債権債務を法定相続分に従って共有することになります。この状態を法律用語では遺産共有と言います。
この遺産共有の状態を解消する方法に関して説明をしたいと思います。
被相続人の方が生前に遺言書を作成していた場合は、原則その通りに遺産を承継することになりますが、遺言書が存在しない場合は、法定相続人の全員で遺産をどのように分けるかを協議する事ができます。この協議を『遺産分割協議』と言い、法定相続人の全員が納得しているのであれば、分け方は自由です。
この『遺産分割協議』にはいくつかの類型がありますので、以下でご紹介させて頂きます。
<現物分割>
現物分割とは、その名の通り被相続人の残した財産を現物のまま各相続人が取得するという遺産分割方法です。以下、事例を使ってメリットとデメリットを説明します。
~事例~
<遺産の内訳>
土地1筆300m2(3,000万円相当)
宝石(1,500万円相当)
<法定相続人>
長男、二男、三男(各法定相続分3分の1)
<分割方法>
長男が土地を、二男が宝石を現状のまま取得する
上記事例のケースが典型的な現物分割と言えますが、メリットとしては以下のような事が考えられます。
・遺産を簡単に分ける事ができます。
・厳密に遺産の評価額を確認する必要がありません。
・共有状態にならないので、内容に納得をしている限りトラブルが持ち越される事がないです。
・各相続人が、すぐに自由に換価することができます。
反対に、デメリットとしては以下のような事が考えられます。
・相続人間で、平等に遺産を分ける事が難しいです。上記事例のケースでは、何も取得しない三男は通常納得する可能性は低く、話がまとまらないことになります。
このように、遺産が現金や預金のみでない場合には、通常は現物のまま相続人全員に平等に遺産を分ける事は困難であり、後日説明する換価分割や代償分割を併用するなどして、相続人間の平等を図る事が多いかと思います。
なお、今回のケースでは、土地を2つ(各150m2)に割って長男と三男が取得するという内容にすれば、理論上は各人が1,500万円相当の財産を取得するという結果になり、平等に分割をすることが出来ます。この手続きを実行するためには、まず土地を二つに分割する登記(分筆登記といいます)をして、その後に相続登記の手続きをする事になります。1つ土地の登記簿では、ココからココまでが長男、ココからココまでが三男が所有という内容を表現出来ないからです。
<換価分割>
換価分割とは、例えば法定相続人は複数人いるが、相続財産が被相続人の不動産(自宅)しか無い場合に、不動産をお金に換価して相続人間で分配するという遺産分割方法です。以下、事例を使ってメリットとデメリットを説明します。
~事例~
<遺産の内訳>
土地1筆150m2(3,000万円相当)
建物1棟(1,500万円相当)
<法定相続人>
長男、二男、三男(各法定相続分3分の1)
<分割方法>
上記土地建物を換価して3人に1500万円ずつを平等に分配する
上記事例のケースが典型的な換価分割と言えますが、メリットとしては以下のような事が考えられます。
・遺産を現金化してから分配するので、各相続人に平等に分配をする事が出来ます。
・不要な現物(今回のケースでは、被相続人の自宅)をそのままの形で取得する必要がありません。
・現物分割をすると価値が下がってしまう場合に効果的に分割できます。
・代償分割(次回紹介)で代償金を支払う能力がなくても活用できます。
反対に、デメリットとしては以下のような事が考えられます。
・原則相続人全員が不動産の売主になり、それぞれ譲渡所得税がかかります。
・希望通りの価格で売却出来ない可能性があります。
・不動産の処分に関して、手間と費用がかかります。
このように、相続人がそのままの形で必要としない遺産がある場合には、有効な分割方法であると言えます。
なお、換価分割と代償分割の違いの理解があいまいのまま手続きを進めると、大きなトラブルに発展する可能性があります。
例えば上記のケースで、長男が単独で土地建物を取得して換価する代わりに、二男と三男に先行して1500万円ずつ支払ったとします。長男が結果的に平等に分配するつもりで行なったとしても、一般的にこの内容は、税務署には代償分割と判断されてしまいます。
そうすると、二男、三男は代償金をもらっただけなので税金が一切かからず、長男に対して譲渡益税の全て(最大で譲渡益の39.63%)が掛かってきてしまい、大変な事になります。このように、遺産分割には微妙な法律判断が求められますので、専門家に相談をされることをお勧めします。
<代償分割>
代償分割とは、例えば法定相続人は複数人いるが、不動産の全てを相続人の1人が取得する代償として、他の相続人に対して代償金を支払い相続人間の均衡を図る遺産分割方法です。以下、事例を使ってメリットとデメリットを説明します。
~事例~
<遺産の内訳>
土地1筆(4,500万円相当)
建物1棟(1,500万円相当)
<法定相続人>
長男、二男、三男(各法定相続分3分の1)
<分割方法>
上記土地建物を長男が全て取得して、その代償金として二男、三男に各2,000万円を支払う。
上記事例のケースが典型的な代償分割と言えますが、メリットとしては以下のような事が考えられます。
・他の相続人に不動産を継がせることなく特定の相続人が取得できる。
・遺産を分割しないで全て取得できる。
・ケースにより相続税の節税ができる可能性がある。
反対に、デメリットとしては以下のような事が考えられます。
・法定相続人全員に代償金について納得してもらわないと手続きが出来ない。
・不動産を全て取得した相続人は、代償金の支払いが金銭的に大きな負担となる。
・不動産を取得した相続人から代償金が支払われない場合、再び遺産分割協議を行うことは困難であり、支払いを求める訴訟に発展してしまうおそれがある。
このように、不動産等の遺産を全て取得したい相続人がいる場合には、有効な分割方法であると言えます。
ただし、不動産を取得した相続人がその不動産を売却した場合の譲渡所得税の計算に関しては、最大の注意を要します。判例上、代償分割の支払代償金は譲渡所得の金額の計算上の取得費に当たらないとされているからです。
上記の事例で、長男が二男、三男に対して各2,000万円を支払い、土地建物を6,000万円で売却したが、仮に取得費が不明の場合、取得費は売却価格の5%で計算されるので300万円となります。そして譲渡所得の課税価格は6,000万円-300万円=5,700万円となり、これが仮に短期譲渡所得に該当すれば、最大39.63%の税金がかかりますので、税額は2,258万9,100円となってしまいます。長男1人でこれを負担する事になるので、長男は赤字になってしまします。代償金額の提案は長男側がするケースが多いでしょうから、長男にとっては最悪の状況となるでしょう。
代償金を計算するには、ここまで見越していないといけないという事です。
換価分割と代償分割の有効性の判断には専門的な知識を要しますので、特にこのような手持ちの資金で代償金を支払えないようなケースであれば、事前に信頼できる専門家に『換価分割と代償分割のどちらを選択すべきか』を相談される事をお勧めします。
なお、譲渡所得につき、マイホームを売ったときの特例に該当する場合には、この特例を受ける事は可能です。
ちなみに、どのような分割方法であっても全員の合意が条件となりますので、容易に合意が得られない場合には、家庭裁判所が関与する遺産分割調停や遺産分割審判の手続きによることになります。