<配偶者居住権に潜むリスク:相続準備は慎重に>

これまでは、相続人が配偶者と子で、家が遺産の大部分を占める事例では、子の法定相続割合(50%)を家以外の財産では確保できないため、配偶者が家の所有権を単独所有できず子との共有にせざるを得ないケースや、家を売却してそのお金を配偶者と子の間で遺産分割せざるを得ないケースがあり、配偶者が家に住める可能性を阻害していたのですが、2020年4月に施行された配偶者居住権の制度により、「家の居住権は配偶者・家の所有権は子」という遺産承継が可能となり、配偶者も子も法定相続割合を満たした遺産分けが可能となりました。

配偶者は配偶者居住権により家に住み続けることができ、子は家の所有権を取得することにより法定相続割合の遺産を取得することができる画期的な権利と言えますが、安易な運用を行うと思わぬトラブルに見舞われることになります。

[家に住まなくなった時のトラブル]
まず、配偶者居住権は、原則として配偶者が亡くなるまで家に住み続けることを想定していますが、現代社会のライフスタイルは様々です。途中で家を出て介護施設に入居することも珍しくありませんし、健康状態の悪化により終身型の病院住まいになる方もいます。

そのような理由で家を退去した場合でも、配偶者が存命のうちは家の配偶者居住権は残っているため困ったことが起こります。例えば、家を売って介護施設費用に充てようなどと考えても、「配偶者居住権付きの家」を購入する人は現れることはありません。配偶者居住権は他人に譲渡することができないと定められているため、家の所有権は購入できても配偶者居住権は購入できず、そのまま配偶者居住権が残っている家を購入しなければいけない状態になってしまうからです。

このような場合、配偶者居住権を解消する必要が生じますが、こちらも簡単には進みません。

冒頭の配偶者と子の事例で配偶者居住権を解消する場合、法的には配偶者と子で配偶者居住権の合意解除をすることになりますが、家の所有権を持つ子にとっては「配偶者居住権の制約がない家になる」という得な状態になるため、無償で合意解除した場合は「贈与税」の課税対象となるのです。もし贈与税の課税を避けたい場合、国税庁の評価方法に従い「配偶者居住権の評価額」相当の金額を子から配偶者に渡し、有償で合意解除を行うことになります。しかし、有償にせよ無償にせよ子が出費をしなければならない事態に変わりはありません。

このように、家を売ろうと考えた場合、配偶者居住権を解消するために子の出費を経てようやくは他人に売ることができることを想定しなければならないのです。

なお、配偶者と子の合意により家を「賃貸」することは認められているので、家が賃貸に適している物件の場合は、家を出て介護施設に入った後は賃貸に出して賃料収入を介護施設費用に充当することも可能です。しかし、マイホームの場合、賃貸に適している家ばかりではないのが通常なので安易に賃貸を選択するのは注意が必要です。

このように、配偶者居住権を設定する際は、主に住まなくなった事態を想定し、配偶者居住権合意解除の際の資金準備や売却の計画、賃貸など再利用方法の「将来想定」が必要になると言えます。

[日常の維持管理と費用負担]
次に配偶者居住権設定後、日常の利用方法や費用負担にも問題が起こります。

まず、配偶者は増改築を自由にできません。冒頭の配偶者と子の事例で、古くから住んでいる家でかなり老朽化しているので大修繕(増築やリノベーションなど)をしたい場合、子の承諾がなければ行うことができず、もし配偶者が勝手に強行した場合、違反行為ということで配偶者居住権が消滅してしまう可能性もあるのです。よって、家の築年数などを考慮し、あらかじめ親子で修繕計画を取り決めておかないと、いざ大修繕が必要という時に諍いが起こる可能性があるのです。

なお、配偶者は家の原状回復程度の修理は行うことができますし、配偶者が修理を行わない場合、子が修理を行うことができます。

また、リフォーム等の改良の要素がある修理の場合、配偶者から子に通知をしなければなりません。ちなみに、このようなリフォーム等で附属させたものは、配偶者が中途で配偶者居住権を解消する場合には取り外さなければいけないことになっているため、親子間が不仲の場合、取り外しを巡ってトラブルが起こる可能性があります。

なお、これらの費用は原則的に配偶者が負担することになります。例外として、リフォーム等で家の評価価値が上がった金額は所有者である子に負担させることもできますが、現実としてそのようなことは少ないため、維持管理費用は配偶者が負担しなければいけないことを配偶者居住権を設定する段階であらかじめ考慮する必要があります。

以上のように、配偶者居住権を設定する場合、「将来的に家を退去する場合の計画」「家に居住中の維持管理プラン」などをあらかじめ検討しないと思わぬトラブルを誘発することがあるのです。

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