これまで、成年後見制度や成年保佐制度を利用する場合、「欠格条項」に該当することにより、主に医師、弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士などの資格、公務員、医療法人やNPO法人などの役員などの一定の資格や職業を失ったり、営業許可等が取得できなくなったりするなどの権利制限に関する規定が定められていました。
最近では、成年後見制度を利用した人の職業を制限する「欠格条項」が法律に規定されていた当時、警備員の仕事を失った岐阜県の男性が国を訴えていた裁判で、岐阜地方裁判所はかつての法律の規定は職業選択の自由などを保障した憲法に違反すると判断し、国に10万円の支払いを命じました。
「欠格条項」は警備業法のほか、国家公務員法や自衛隊法など187の法律に規定されていましたが見直しを求める声の高まりを受け、令和元年6月7日に成立した「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」により、上記の権利制限に関する規定が削除され、今後は各資格・職種・営業許可等に必要な能力の有無を個別的・実質的に審査し、判断されることになります。
☆成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るため成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29の関係法律の整備に関する法律案の概要)
成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るため成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29の関係法律の整備に関する法律案の概要)に基づく措置として、成年被後見人及び被保佐人(成年被後見人等)の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等に係る欠格条項その他の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための措置を講ずる。
【改正内容】
成年被後見人等を資格・職種・業務等から一律に排除する規定等(欠格条項)を設けている各制度について、心身の故障等の状況を個別的、実質的に審査し、各制度ごとに必要な能力の有無を判断する規定(個別審査規定)へと適正化するとともに、所要の手続規定を整備する(180法律程度)。
(1)公務員等 : 国家公務員法、自衛隊法等⇒原則として現行の欠格条項を単純削除。
※現行制度において、採用時に試験や面接等により適格性を判断し、その後、心身の故障等により職務を行うことが難しい場合においても病気休職、分限などの規定が既に整備されている。
(2)士業等 : 弁護士法、医師法等⇒原則として現行の欠格条項の削除を行い、併せて個別審査規定を整備。
なお、就任時に試験や個別審査規定により適格性を判断し、その後、心身の故障等により職務を行うことが難しい場合の登録の取消しなどの規定が既に整備されている場合、現行の欠格条項を単純削除。
(3)法人役員等 : 医療法(医療法人)、信用金庫法(信用金庫)等⇒原則として役員の欠格事由から成年被後見人等を削除し、併せて個別審査規定を整備。
なお、個別審査規定が既に整備されている場合、役員の欠格事由から成年被後見人等を単純削除。
(4)営業許可等 : 貸金業法(貸金業の登録)、建設業法(建設業の許可)等⇒原則として現行の欠格条項の削除を行い、併せて個別審査規定を整備。
なお、個別審査規定が既に整備されている場合、現行の欠格条項を単純削除。
(5)法人営業許可等 ⇒ 上記(4)と同様
【施行期日】
① 欠格条項を削除するのみのもの→原則として公布の日
② 府省令等の整備が必要なもの→原則として公布の日から3月
③ 地方公共団体の条例等又はその他関係機関の規則等の整備が必要なもの→原則として公布の日から6月
④ 上記により難い場合→個別に定める日